別れ
「アオ、元気になって!頑張って!」
おばさんの叫び声に、みんな泣いていました。
すぐそばにいたおじさんがしゃがみこみ、声を震わせながら言いました。
「自分が病気の時、アオは馬そりで病院まで走ってくれた。忘れもしない冬の嵐のような日だった。猛吹雪の中、アオは必死に走ってくれた。本当にありがたかった。今アオがこんな苦しんでいるのに、自分は何もしてあげられない。悔しいよ!」
私はバケツの中のにんじんを取り出し、何日も食事をしていないアオに差し出しました。アオはにんじんを食べてくれました。口元でにんじんを押さえている私の手に、アオの涙がぽとぽととこぼれ落ちてきました。
「アオ泣かないで!泣かないで・・・」
私はアオの顔を両手で抱えながら、アオと一緒に泣きました。
「アオ、もう一度元気になってくれ!頼むよ!元気になったらもう働かなくてもいいんだよ。ゆっくり休んでくれ。そう思っていた矢先に、まさか病気になるなんて・・・」
そう言いながら父も涙して、何も言えないままアオの体をさすっていました。
そして夕方、獣医さん達の懸命な努力、家族や村人達の願いも空しく、アオは泣きながら倒れ、天国へと旅立っていきました。アオは生きようと頑張りました。しかし、力尽き果て、倒れ、息絶えました。
「アオ、なんで死んでしまったんだ!もう一度立ち上がってよ!」
「アオ、もう一度目を開けて!お願いだから目を開けてよ!」
私はアオの顔をなでながら叫びました。
その時、息絶えたはずのアオの目から一粒の涙がぽとっとこぼれ落ちました。
私は思いました。みんなの想い、悲しみを、アオはわかっていたのかもしれないと。
秋深く肌寒い夕暮れ時、泣き叫ぶみんなの声が山里に響き渡りました。時折風が吹くと。一層寒く感じられる津軽の秋のことでした。