アオの涙
白い息を苦しそうに吐きながら、アオはみんなの掛け声に合わせて力いっぱいトラックを引っ張りました。時々ムチで叩かれながらも、アオは頑張りました。そんなアオの姿を見て「アオ頑張って!頑張って!」と心の中で叫んでいるうちに、私は「アオを叩かないで」と思わず大声で叫んでしまいました。私の声を聞いたのか、父も「アオを叩くな!」と言いました。その一言で胸がスーッとしたのを覚えています。
そしてアオは見事トラックを引き上げました。
「よくやった、アオ!」
そう言いながら、手綱を引く職人さんがアオの顔を拭いてやりました。
すると、ムチを打たれながら精一杯頑張ってくれたアオの目には涙が浮かんでいました。泣きながら頑張ってくれたのです。その夜、私はアオの涙が頭から離れず、なかなか眠りにつくことができませんでした。
その後もこんな出来事がありました。
私の実家のそばに岩木山神社という第二の奥日光と言われる立派な神社があります。当時は山田様が宮司さんでした。ある日、宮司さんが父にお願いにやってきました。
「実は、先日の台風で神社の杉が倒れ掛かって危ないのです。何とか切り倒してもらえませんか」
宮司さんの依頼を受けた父は、現場を見てこう考えました。
「崖があって危ない仕事になりそうだ。これはアオしかできない!」
数日後、アオを連れてくると、早速アオと杉をワイヤーでつなぎました。
「さあアオ。二、三回引っ張ったら今日の仕事は終わりだよ」
「なあアオ。今日も頼むよ」
職人さん達の期待を背に、アオは懸命に杉を引っ張り始めました。
「アオ、頑張ってくれよ。ソレー、ガンバレー!もう一回。ソレー、ガンバレー!」
みんなの掛け声に合わせ、アオは苦しそうに白い息をはきながら力を振り絞りました。